大動脈瘤に対する低侵襲治療(ステントグラフト治療)
大動脈は、心臓から血液が体全身に送られる際のメインストリートにあたります。
(水道で言えば本幹にあたります)
胸部と腹部との境界である横隔膜を境に、胸部側の大動脈を胸部大動脈、腹部側の大動脈を腹部大動脈と分類します。
胸部大動脈はさらに、心臓から頭に向かって上行する上行大動脈と、頭や両手への血管を分枝しつつ頚部あたりで弓のように反転する弓部大動脈と、左胸を末梢に向かって下行する下行大動脈に細分されております。
大動脈瘤には、血管がこぶ状に膨らんでおこる真性動脈瘤、血管の一部が欠如しておこる仮性動脈瘤、血管が裂けて発症する大動脈解離(解離性動脈瘤)があります。
このうち、動脈瘤という場合には真性動脈瘤をさすことが一般的です。
原因として最も多いものは動脈硬化症であり、このため高齢になるにしたがって罹患率が増大します。
動脈瘤に伴った自覚症状は全くといってよいほどありません。腹部に拍動性の腫瘤を自覚して見つかるか、他疾患治療中のCT検査等でたまたま発見されるものがほとんどです。不幸にして破裂してしまった場合にのみ、胸痛・腰痛・腹痛やショック症状を来たすことになります。
最も恐ろしい合併症は、動脈瘤の破裂です。破裂した場合には約50%が治療を受ける前に命を落とされております。最近司馬遼太郎さんや淀川長治さんが亡くなられたのも、腹部動脈瘤が破裂したことによります。
このため、早期診断して適切な治療を受けていただくことが重要です。一般的には大動脈の直径が、正常の2倍以上になると急激に破裂のリスクが増大するといわれております。
現在、治療に関するガイドラインでは、胸部大動脈瘤径が60mm以上のもの・腹部動脈瘤径が50mm以上のものが治療対象(ほおっておくと破裂の危険性が高い)とされております。
一般的には、心臓血管外科にて外科的に動脈瘤を切除して、人工血管に植え替える人工血管置換術を行います。
問題が無ければ胸部で術3~5日目から歩行、術3日目から経口摂取、腹部で術2日目から歩行、術3日目から経口摂取、可能となります。
平均的な入院期間は胸部で2~3週間、腹部で10日~2週間前後です。
手術リスクは胸部で数%~数10%、腹部で1%です。
90年代前半に、新しく血管内から治療する方法「ステント治療」が開発されました。
この方法では足の付け根(鼡径部)を約5cm程度切開し、大腿部の動脈から動脈瘤の部分までステントを誘導して、内側からステントにて動脈瘤を治療するものです
全身麻酔にて施行することが多いですが、病変によっては局所麻酔にて施行することも可能です。
手術リスクは胸部で数%~数10%、腹部で1%です。
この治療法最大の利点は、とにかく低浸襲であることです。問題が無ければ手術翌日から経口摂取も歩行も可能となります。傷が小さいために、疼痛も少なく、また美容的にも優れているとされております。
平均的な入院期間は1週間前後です。
一方、欠点としては
①完全に動脈瘤が治療できないことがあること。
②動脈瘤及び他の動脈を損傷してしまう可能性があること
(この場合には緊急手術で直さなければならないこともあります)
③発熱等が見られること
④まだ新しい治療法であり、10年以上の長期成績が少ないということです。
またステント治療には解剖学的な制限があり、病変によってはできないことがあります。
動脈の蛇行が高度であったり、重要な分枝との位置関係が悪かったり、目的となる動脈瘤周囲の大動脈径が太すぎるような場合、大腿部からの動脈径が細すぎる場合には施行することができないことがあります。
このため、適応を決定するに当たっては、CT検査(立体構造を検査できる3D-CT検査等)や血管造影検査が必要です。
万一ステント治療ができないような場合には、外科治療を受けていただくことになります。
平成19年度より、動脈瘤に対するステント治療は認可された施設のみで可能となりました。
当院も県下で3施設のみに(四日市市民病院・三重大学医学部付属病院・伊勢赤十字病院)認められている動脈瘤に対してのステント治療認定施設となっております。
現在、当院胸部外科では、腹部動脈瘤・胸部動脈瘤に対して解剖学的・手技的に検討を加えた上で、可能なものに対してはステント治療を行っております。
動脈瘤に対する治療としてステント治療を希望される方は、一度御相談下さい。
(但し、ステント治療の限界から適応にならないこともあります。この際には手術を含めて、治療法に関しての相談をいたします。)