社会の高齢化とともに、ひざや股関節の痛みを訴える人が増えていますが、適切な治療をせずに放置しておくと、やがてはQOL(生活の質)の低下や高齢者の寝たきりにつながる危険性があります。いくつになっても自分の足で歩くことができ、仕事や趣味などの活動的な生活を送ることは、いきいきと豊かな人生を過ごすためにとても大切なことなのです。
当科では、骨や筋肉、関節といった運動器の治療を行っています。ここでは股関節やひざ関節などの痛みの治療に有効な人工関節をご紹介します。
股関節は大腿骨の上の端にある骨頭とよばれる丸くなった部分が、寛骨臼という骨盤のくぼみにはまり込むような形になっており、足を様々な方向に動かすことができます。
関節部分の骨の表面は軟骨でおおわれ、股関節にかかる力を吸収するとともに大腿骨頭と臼蓋の動きをスムーズにしています。
軟骨は通常耐久性があるものですが、年齢を重ねるにつれてすり減っていきます。関節を守っている軟骨がすり減ることにより、股関節を動かしたり、体重がかかるたびに、すり減った軟骨の下からむき出しになった骨同士が直接こすれて骨が変形してくるとこわばりを生じたり痛みを感じたりします。
人工股関節は金属製のカップ、ステム、ネック、そして摺動面を形成する骨頭ボール、ライナーなどでできており、骨頭ボールとライナーはセラミック、金属、ポリエチレンプラスチックなどの組み合わせとなります。
手術の関節へのアプローチは前方、前側方、後側方などがあり、患者さんの状態によって使い分けていますが、最近では仰臥位での前方アプローチが多くなってきています。このアプローチは筋肉の損傷がほとんどないもので早期の回復が期待できます。
膝関節は大腿骨(腿の骨)、脛骨(すねの骨)、そして膝蓋骨(膝の皿)から構成されており、関節の回りにある靱帯や筋肉で安定性を保つことができています。また、それらの骨の表面は弾力性があって、滑らかな軟骨で覆われています。軟骨は関節を動かしたり、体重が掛かった時の衝撃を緩和するクッションの役目をもっています。ところが、年齢を重ねるにつれてクッションの役割を果たす軟骨がすり減り、体重がかかるたびに軟骨の下の骨同士がこすれ合って痛みを生じたり、こわばったりするようになります。
痛みの原因であるすり減った軟骨と傷んだ骨の表面部分を切除して、金属やプラスチックでできた人工の関節に置き換える手術です。大腿骨コンポーネント、脛骨コンポーネントは金属でできていますが、軟骨の代わりとなるベアリングはプラスチックでてきています。痛みの大きな改善と、早期の回復が期待できる治療法です。
皮切は10cm前後で大腿内側広筋に最小限の切開を加えるMIS法で行っています。正座を許容できる機種を選択しています。しかし全員が正座できるわけではなく関節可動域は本人のリハビリへの取り組み方と術前の状態に左右されます。
膝関節の損傷が比較的軽度の患者さんの場合、膝の片側だけを置き換える部分置換型人工膝関節が使えます。膝全体を置換する全置換型と比べて小さな人工関節のため、骨を削る量や手術の傷も小さく、より早期の回復が望めます。
術前に軟骨や靭帯の状態を把握するためにMRIや関節鏡検査を行うことがあります。
虫歯の治療で傷んだ部分を取り除きかぶせものをするのによく似ています。