上咽頭とは咽頭の軟口蓋レベルより上部で、鼻腔より後方、頭蓋底の直下の部位にあたります。解剖的に隣接する中咽頭がん、鼻腔がん、篩骨洞がんとの鑑別を要します。
頭頚部がんのなかでも比較的稀な疾患で、アジア特に中国・台湾など東アジアに多い疾患です。Epstein-Barr(EB)ウイルスが主な原因の一つと考えられています。
上咽頭がんの病期
腫瘍に関する進展度合いを示したT分類は、上咽頭に限局したものがT1、鼻腔に伸びるものがT2a、咽頭の側方に伸びるものがT2b、頭蓋骨や副鼻腔へ進展するものがT3、頭蓋内や下咽頭、眼窩に進展したり、上記の脳神経症状をきたしているものがT4です。
所属リンパ節領域での病的リンパ節の範囲を示したN分類は、他の頭頸部がんと同様で、N0からN3まで分類されます。
遠隔転移に関しては、肺・縦郭リンパ節・骨などに多く、遠隔転移があればM1、無ければM0です。
病期
0期 | Tis | N0 | M0 |
Ⅰ期 | T1 | N0 | M0 |
II期 | T1 T2 |
N1 N0,N1 |
M0 M0 |
III期 | T1,T2 T3 |
N2 N0,N1,N2 |
M0 M0 |
ⅣA期 | T4 Tに関係なく |
N0,N1,N2 N3 |
M0 M0 |
ⅣB期 | Tに関係なく | Nに関係なく | M1 |
上咽頭がんは、癌の耳管開口部閉塞などから耳閉・耳鳴り・難聴などの滲出性中耳炎の症状から発見されることが少なくありません。また、比較的早期からリンパ節に転移しやすく、頚部腫瘤の症状で発見されることもあります。また上咽頭は解剖学的に頭蓋底の直下にあり、眼の症状(複視)、などの脳神経症状から発見されることもあります。鼻出血や鼻閉などの鼻の症状はかなり進行してから出現し、神経が侵されない限りは痛みの症状は起きにくいのも特徴です。
上咽頭のファイバー検査、画像検査で腫瘍の存在を確認し、腫瘍の一部を組織検査する必要があります。
組織的には通常扁平上皮がんですが、他の頭頚部がんに比べ分化度が低いことが特徴的です。
a) 治療法
上咽頭は解剖学的な特徴から、根治手術をするのが極めて困難な部位です。また、上咽頭がんは低分化~未分化な組織型であることが多く、他の癌に比べ比較的放射線や化学療法の感受性が高く、通常放射線治療が行われます。化学療法も効果があることから、両方の治療を組み合わせて根治を目指します。当院では腫瘍内科の協力を得てこの治療を行っております。
頚部リンパ節転移には原則として頚部郭清を行いますが、上咽頭の原発巣の治療を優先させています。
b)上咽頭がんの治療後合併症・後遺症
上咽頭がんは高線量の放射線を照射される関係上、治癒されても様々な治療後の合併症・後遺症を生じます。解剖学的な特性から難治性の滲出性中耳炎、慢性中耳炎が頻発します。唾液腺障害からの唾液低下は避けられず、長期にわたる口腔咽頭の乾燥、異常感を残します。時に開口障害も生じて、それに伴う嚥下や構音の問題が生じます。さらに脳幹部への過照射を避けられないことも多く、それによる視覚・動眼障害、顔面神経麻痺、嚥下障害などの脳神経障害も起こり得ます。
当院の放射線治療科で放射線療法を、腫瘍内科において化学療法を実施しております。