【形状】
▶肝臓は人の体の中で一番大きな臓器です。肝細胞が集まった重い臓器でもあります。
▶右の肺の真下、肋骨の真下にあり、右の脇腹側が広く、みぞおちに向かって細くとがった三角形をしています。
【主な働き】
▶小腸から取りこまれた「栄養素」や「たんぱく質」、「糖質」を材料にして、体に取り込みやすい「たんぱく質」や「ブドウ糖」などを作ります。
▶体内でたんぱく質やブドウ糖などが過剰になれば蓄え、不足すれば取り出す貯蔵庫のような役目もあります。
▶体内に取り込まれた有害な物質を分解します。
▶消化に必要な胆汁を作り、胆のうに蓄えます。
【肝臓がんの分類】
▶肝臓がんは主に「原発性肝がん」と「転移性肝がん」に分類されます。
▶原発性肝がんの95%は肝臓の細胞から発生した「肝細胞がん」、または肝臓から胆のうへの胆汁の通り道(胆管)の細胞から発生した「胆管細胞がん」です。
▶「転移性肝がん」は他の臓器などで発生した「がん」が肝臓内に転移したものです。
大腸がんから転移する例が多く見られます。
【肝臓がんの原因】
▶肝細胞がんの主な原因として、「B型肝炎」、「C型肝炎」のウイルスが長く体に存在することや「アルコール」の飲み過ぎがあります。アルコール性肝疾患が原因の肝細胞がんはあまり変化なく一定数ありますが、肝炎ウイルスを減らす、または消す治療の開発と普及によりB型肝炎、C型肝炎が原因の肝細胞がんは減少傾向にあります。
▶一方で増加傾向にあるのが「脂肪肝」を原因とする肝細胞がんです。脂肪肝の方全員ではありませんが、中には慢性的に肝臓に炎症をおこし「肝硬変」になる例があり注目されています。「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」と呼ばれる疾患で、有効な治療は「食事・運動療法」ですが、「ウイルス性肝炎」と同様に定期的な受診が推奨されています。
*NASH=non alcohlic steatohepatitis の略です。
【肝臓がんの性質】
▶肝臓の状態や腫瘍の性質によって差もありますが、肺や胃腸のように空洞ではなく、細胞の詰まった肝臓では腫瘍は比較的ゆっくり増大します。
▶他臓器への転移は比較的少ないです。
▶肝臓は「沈黙の臓器」と言われるように、肝臓がんが発生しても何も症状がない事がほとんどです。
▶病状が進行した場合には、巨大化した「がん」の影響や、血管や胆管を塞いでしまう事などが原因で「むくみ」や「黄疸」、「吐気」、「吐血」、「便に血が混じる」、「便秘」、「下痢」、「食欲不振」、「全身の倦怠感」、「突然の腹部の激痛」、「貧血症状」などが起こる可能性があります。
【画像検査】
診断のためだけではなく、どの方法で、体のどの位置からどのように治療するのが適切かを判断するために検査します。
▶腹部超音波検査(腹部エコー)/造影エコー
超音波の反射を利用し、放射線を使わないため体には優しい検査です。
肝臓の形、腫瘍や腹水、脂肪肝の有無などがわかります。
造影エコーは主に治療に必要な情報を得るために行います。腫瘍の位置、大きさ、性質(良性・悪性)、血管の走行などを確認します。
腫瘍の診断の場合は、造影CTや造影MRIなどを併用します。
* 検査は予約制ですが、当日の検査も可能です。
▶造影CT/造影MRI
CTは放射線を利用し、体を水平方向に輪切りにした画像を撮影します。
MRIは磁石の力を利用し、体を水平方向、および垂直方向に切った画像を撮影します。
造影剤を使う事により腫瘍の位置、大きさ、性質(良性・悪性)、血管の走行などがわかります。
また、CT、MRIは脂肪肝などにより、腹部エコーでは見えづらい場合の診断に有効です。
*検査は予約制です。
【血液検査】
▶腫瘍マーカー
肝臓がんの腫瘍マーカーとしては主にAFP(α‐フェトプロテイン)とPIVKA-Ⅱがあり、診断や治療効果の判定、再発の有無の評価などに用います。
肝臓がんがあっても上昇しない事や、なくても上昇する事もあるため、画像診断での評価も必要になります。
* 当院では採血後1時間~1時間30分程度で結果がわかります。
【血管造影術(AAG/腹部アンギオ検査)】
鼡径部(足の付け根)からカテーテルという細い管を動脈に入れて、肝臓内の動脈まで進め、造影剤を流して放射線で撮影します。(造影剤が流れ込む様子を動画で記録します。)腫瘍の性質を判断するため血管造影検査の途中でCTを撮影します。
肝臓がんには血管が多く、肝臓の動脈を流れる血液から栄養や酸素を受けています。このため肝臓の動脈に造影剤を流すと、血流と共に造影剤が肝臓がんに溜まり、放射線で透視すると血管との位置関係などもよくわかります。肝臓がんの確定診断には有意な検査で、胆管細胞がんに造影剤が貯留しないことを利用し、肝臓がんと胆管細胞がんの鑑別にも有意な検査とされています。
*1週間程度の入院が必要な検査です。
【組織診断(エコー下肝腫瘍生検)】
体の外から針を刺し、肝臓の腫瘍の細胞を針の中に吸い上げて採取し、顕微鏡で組織(細胞の集まり)の形や性質などを見る検査です。
肝臓がんは造影剤を使用したCT/MRI、および血管造影での診断が可能であり、他部位のがんのように組織診断は必須という訳ではありません。
「腫瘍が小さい」「転移性か原発性か判断がつかない」「典型的な所見ではない」といった場合には組織診断を行う事があります。
*約3日間の入院が必要な検査です。
当院で行っている主な治療法として、外科で行う「部分切除術」、内科で行う「ラジオ波焼灼療法」、内科・放射線科で行う「肝動脈化学塞栓術」、「肝動注化学療法」、内科外来で行う「がん薬物療法」があります。「放射線治療」についても当院放射線科で行っていますが、当院では行えない(現時点では三重県でも行えない治療でもあります)治療としては粒子線治療(陽子線治療や重粒子線治療)があります。
当院では原発性肝がんに対しては「血管造影術」と同時に「肝動脈化学塞栓術」を行い、さらに「ラジオ波焼灼療法」による追加治療が主流となっています。原発性肝がんは血液を多く含む腫瘍であり、血管塞栓術で血流を止める事により、熱で焼くラジオ波焼灼療法の効果が高められるためです。転移性肝がんに対してはラジオ波焼灼療法のみを行います。
治療方法の選択は、「腫瘍の状態」、「肝臓がどの程度働いているか」、「治療によって体にどんな影響があるか」、「治療後の日常生活にどのような影響があるか」などを十分検討した上で、ご本人並びにご家族の希望に添える方法を選択します。
【肝切除術】
がんを含めて肝臓の一部を切除する治療法で最も確実な治療法です。
全身麻酔、開腹手術が中心です。
一般的に、「5cm以下で1個のみ」または「3cm以下3個以内で切除可能範囲にとどまっていること」が適応となっています。
《合併症》
・傷口またはおなかの中で出血をおこす事があります。
・肝臓の中に胆汁がもれ出る胆汁漏をおこす事があります。
・肝臓の働きが著しく低下し、腹水がたまったり、黄疸が出たりする肝不全をおこす事があります。
《入院》術後2週間程度
【肝動注化学療法/肝動脈化学塞栓術/肝動脈塞栓術】
腹部血管造影術に引き続き行われる治療です。
後記の治療手順(2)までの治療を「肝動注化学療法」、その後血管を詰める治療を「肝動脈化学 塞栓術」、抗がん剤を使わず血管を詰める治療を肝動脈塞栓術といいます。(TACE のCは抗がん剤治療「化学療法」を意味します。)
肝臓には「肝動脈」と「門脈」の2本の血流があります。肝臓がんに至る「肝動脈」を詰めても、正常の肝細胞は「門脈」から栄養をもらえるため、体への影響はありません。
《合併症》
・カテーテルを抜いた部分から出血する事があります。
・カテーテルの出し入れにより、血管が詰まったり、傷ついたりする事があります。
・検査後の圧迫止血ベッド上安静により、静脈に血のかたまり血栓ができる事があります。これが血管内を通り、狭いところに詰まって「血栓症」や「肺梗塞」をおこす事があります。
・肝臓内の血管に血栓ができて詰まる「門脈血栓」、「肝梗塞」をおこす事があります。
・塞栓物質を使用した場合、注入部分の血流障害により肝臓の機能低下、痛み、発熱をおこす事があります。
・「感染症」、「不整脈」、「ショック症状」、「薬剤アレルギー」をおこす事があります。
《入院》
・治療の前日から約1週間程度(追加治療がある場合は適宜延長します。)
・治療後は5時間の圧迫止血を行い、8時間の床上安静となります。
【ラジオ波焼灼療法(RFA)】
治療効果が高く、切除術より全身への負担が少ないため、肝臓がんの治療の主流となっています。
腫瘍が肝臓の表面にある場合には、肝臓と他の臓器や腹膜などの間に点滴用の水を注入し、人工的に腹水を作ります。(腹部に点滴を入れます)水によってラジオ波が遮断されるため、他の部位に影響なく治療ができます。
一般的に、「3cm以下3個以内」が適応となっています。
《合併症》
・針を抜いた後などから出血する事があります。
・おなかの皮膚の下にあり、内臓を包んでいる腹膜が炎症をおこす腹膜炎をおこす事があります。
・肝臓の中に胆汁がもれ出る胆汁漏をおこす事があります。
・肝臓内の血管に血栓ができて詰まる門脈血栓や肝梗塞をおこす事があります。
・壊死した細胞が化膿して膿が溜まる肝膿瘍をおこす事があります。
・針を刺す事や発せられる熱により皮膚の損傷をおこしたり、消化管や胆のうに穴があいてしまったりする事があります。
・肺に穴があいて、肺がしぼんでしまう気胸をおこす事があります。
・胸に水がたまる胸水や心臓に水がたまる心嚢水をおこす事があります。
《入院》
・治療の前日から約1週間程度(追加治療がある場合は適宜延長します)
・治療後3時間は絶対安静、禁飲食です。
・術後3時間から翌朝に担当医が超音波検査を行うまでは床上安静(側臥位可)となります。
【リザーバー動注化学療法】
静脈点滴注射による全身化学療法に比べ、腫瘍につながる血管のみに抗がん剤を入れる事で、より良い治療効果が期待でき、副作用も少ない治療といえます。
腹部血管造影術(AAG)に引き続き行われる治療です。
血管造影で腫瘍の近くまで挿入したカテーテルをそのまま血管内に残して、少なめの量の抗癌剤を何日か続けて投与します。カテーテルの鼠径部側の端にリザーバーという500円玉くらいの大きさの平たく中が空洞の器具をつなげて、皮膚の下に埋め込みます。このリザーバーに針を刺して抗癌剤を入れます。
一般的に「土日を除いて2週間(10回)投与した後2週間休薬」を一連の治療として繰り返し、治療効果、副作用などを確認して可能であれば何か月、何年と長く続ける治療です。
リザーバー留置後は外来での治療も可能ですが、1日5時間程度の治療を連日行うため入院での治療も選択していただけます。
【がん薬物療法】
一般的に「肝動脈化学塞栓術」の治療適応でない場合に「薬物療法」が選択肢になります。 薬物には「免疫チェックポイント阻害剤」と「分子標的薬」の大きく2種類の薬があります。
「分子標的薬」はがん細胞が増えようとするのをさまたげる作用の薬剤で、がんの進行を遅らせる目的で使用します。
「免疫チェックポイント阻害剤」は、がん細胞がリンパ休などの免疫細胞の攻撃を逃れる仕組みを解除する薬剤です、免疫反応を起こりやすくしたり、がん細胞の表面にでている免疫細胞の働きにブレーキをかける物質に働きかけ、免疫細胞が癌細胞へ攻撃力を取り戻したりすることを目的とします。
定期間隔の注射の治療と内服薬の治療があり、いずれも通院で治療が受けられます。
治療効果や副作用を確認して、可能であれば何か月、何年と長く続ける治療です。
《種類》
・アテゾリズマブ(薬剤名:テセントリク注)+ベバシズマブ(薬剤名:アバスチン注)
3週間毎の点滴
・デュルバルマブ(イミフィンジ注)+ トレメリムマブ(イジュド注)
4週間毎の点滴
・ソラフェニブ(薬剤名:ネクサバール) 内服
・レゴラフェニブ(薬剤名:スチバーガ) 内服
・レンバチニブ(薬剤名:レンビマ) 内服
・ラムシルマブ(薬剤名:サイラムザ注) 2週間毎の点滴
《主な副作用》
分子標的薬関連
・蛋白尿
・手足症候群(軽症) 手のひらや足の裏がちくちくする、さわると痛い、違和感があるなど。
・手足症候群(重症) 手のひらや足の裏が赤くなる、白くなる、水ぶくれになるなど。
・胃腸症状 食べたくない、みぞおちがムカムカする、吐き気がする、嘔吐、下痢など。
・高血圧
・疲労感
・嗄声 しゃがれ声になったり、声が低くなったりすることがあります。
・尿検査の異常 蛋白尿
・血液検査の異常 肝障害、腎障害、貧血など。
・甲状腺機能低下
免疫チェックポイント阻害剤関連
・免疫関連有害事象
脳炎、髄膜炎、下垂体機能障害、甲状腺機能障害、副腎機能障害
腎不全、尿細管間質性腎炎、間質性肺炎、心筋炎 肝機能障害
膵炎 1型糖尿病 大腸炎 筋炎 横紋筋融解 神経障害 ギラン・バレー症候群
血球貪食症候群 など
・infusion reaction
悪心 嘔吐 発熱 腹痛 掻痒感 血圧低下 呼吸困難 意識障害など