唾液腺は耳の下に存在して「おたふくかぜ」の際に腫れる耳下腺、顎の下にある顎下腺、舌の裏に存在する舌下腺といった大唾液腺と、口腔、咽頭に無数に存在する小唾液腺に分けられます。
一般に、食事が口に入ったときに分泌される唾液は耳下腺から、安静時特に睡眠中に分泌される唾液は主に顎下腺からと考えられています。
唾液腺腫瘍の85%は耳下腺から発生し、耳下腺腫瘍の80%は良性です。一方で、顎下腺に発生する腫瘍では、その50-60%が悪性です。
唾液腺がんはその組織型が多彩で、1991年のWHO分類では18種類に分類されています。頭頸部がんは扁平上皮がんが多い中で、腺がんがほとんどである点が特徴的です。
耳下腺がんを中心に、耳の下やあごの下が腫れて気が付くことがほとんどです。
腫れが急速に進行することで悪性腫瘍であることがある程度予測されますが、大きくなる速度が比較的遅いものもあり、進行具合だけでは両性と悪性の区別はつきません。
耳下腺の中を顔面神経が通過していることから、耳下腺がんでは顔面神経麻痺が出現することがあります。
また、癌の一部では痛みが伴うことがあり、痛みは悪性腫瘍であることを疑わすサインであるとも言えます。
T0: | 原発腫瘍を認めない。 |
T1: | 最大径が2cm以下の腫瘍で、実質外進展なし。 |
T2: | 最大径が2cmを越えるが4cm以下の腫瘍で、実質外進展なし。 |
T3: | 最大径が4cmを越える腫瘍、および/または実質外進展を伴う腫瘍。 |
T4a: | 皮膚、下顎骨、外耳道、または顔面神経に浸潤する腫瘍。 |
T4b: | 頭蓋底、翼状突起に浸潤する腫瘍、または頚動脈全周性に取り囲む腫瘍。 |
N0: | 所属リンパ節転移なし。 |
N1: | 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cm以下かつ節外浸潤なし。 |
N2a: | 同側の単発性リンパ節転移で最大径が3cmを越えるが6cm以下かつ節外浸潤なし。 |
N2b: | 同側の多発性リンパ節転移で最大径が6cm以下かつ節外浸潤なし。 |
N2c: | 両側あるいは対側のリンパ節転移で最大径が6cm以下かつ節外浸潤なし。 |
N3a: | 最大径が6cmを越えるリンパ節転移で節外浸潤なし。 |
N3b: | 最大径が6cmを越えるリンパ節転移で臨床節外浸潤あり。 |
M0: | 遠隔転移を認めない。 |
M1: | 遠隔転移を認める。 |
病期分類
病期1: | T1N0M0 |
病期2: | T2N0M0 |
病期3: | T3N0、N1M0またはT1、2、3N1M0 |
病期4A: |
T1、2、3N2M0 T4aN0、N1、N2M0 |
病期4B: |
T4b、 Nに関係なく、M0 Tに関係なく、N3M0 |
病期4C: | TNに関係なくM1 |
唾液腺がんのほとんどは、切除可能であれば手術が第1選択です。
その際には顔面神経や下顎骨を同時に切除するかどうかで迷いますが、温存の可能性を追求します。
当科では、顔面神経の温存に勤めており、手術中に顕微鏡を用いて神経の温存が可能かどうかを判定しています。
どうしても神経が残せない場合でも、神経を移植して麻痺を可及的に回避することに努めています。
頸部のリンパ節に明らかな転移があれば頸部郭清を同時に行いますが、癌の組織型によっては予防的に頸部郭清を行う場合もあります。
A.放射線治療
放射線単独では根治は望めませんが、手術後に放射線治療を加えることはあります。
B.化学療法
未分化がんや、腺がんの一部には手術に加えて化学療法を行う場合もありますが、効果も思わしくなく、薬剤の選択も流動的です。
当科では、年間約10人前後の唾液腺がんの手術を行ってきております。