前立腺は男性にだけにある臓器で、膀胱の底、尿道を取り囲む形で存在しています。精液の一部を分泌し、精子の運動を活発にする働きがあるといわれています。
前立腺がんは比較的進行が遅い癌といわれています。そして、その発育に男性ホルモンが関与していることがわかっており、最近、日本でも増えてきています。これは、高齢化社会になり、食事が欧米化したことなどが原因の一つとも考えられています。
国立がんセンターが発表した2019年の癌罹患率は人口10万人あたり154人と男性では一番多くなっています。前立腺がんの危険因子はいまだ不明ですが、内因的な要因としては、遺伝的要因、男性ホルモンの関与がいわれています。
一方、外的な要因としては、確実な証拠はないものの、動物性脂肪を摂取する食生活が前立腺がんの危険性に関与することが示されています。
前立腺がんは早期ではほとんど症状がありません。
前立腺肥大症の症状(オシッコが出にくい、残尿感がある、夜トイレに起きる)で受診して診断されることがありますが、最近では健康診断でPSA(前立腺特異抗原)の異常値を指摘されて診断される機会が増えています。
① 直腸診
お尻から指を入れて、前立腺を触れて診察をします。
② 経直腸的超音波検査
指に変えて超音波検査の器械をお尻に入れて前立腺の大きさや形をみます。
③ PSA(前立腺がん腫瘍マーカー:前立腺特異抗原)
前立腺から分泌される糖タンパク質で、血液検査により症状がない小さな癌を見つけるきっかけになります。
しかし、PSA値は前立腺がんだけでなく、前立腺肥大症や前立腺炎などの他、加齢によっても上昇することがあります。
④ 前立腺生検
前立腺の組織検査で確定診断となります。
お尻の穴から超音波検査の器械を挿入して、超音波画像を見ながら生検針で組織を採取します(通常12箇所の組織を採取します)。
⑤ 組織検査の結果、前立腺がんの診断がついたら
MRI、CT、骨シンチなどの画像検査により癌の広がりや転移の状態を検査します。
病期分類
T: | 原発腫瘍 |
T1: | 触知不能、または画像診断不可能な臨床的に明らかでない腫瘍 |
T1a,T1b: | 前立腺肥大症手術の切除組織内に偶発的に発見される主要 |
T1c: | 針生検により確認される腫瘍 |
T2: | 前立腺に限局する腫瘍 |
T2a: | 片葉の1/2以内の進展 |
T2b: | 片葉の1/2をこえ広がるが、両葉に及ばない |
T2c: | 両葉への進展 |
T3: | 前立腺被膜をこえて進展する腫瘍 |
T3a: | 被膜外へ進展する腫瘍 |
T3b: | 精嚢に浸潤する腫瘍 |
T4: | 精嚢以外の隣接臓器(膀胱頸部、外括約筋、直腸、肛門挙筋、骨盤壁)に固定、または浸潤する腫瘍 |
N: | 所属リンパ節 |
N0: | 所属リンパ節転移なし |
N1: | 所属リンパ節転移あり |
M: | 遠隔転移 |
M0: | 遠隔転移なし |
M1: | 遠隔転移あり |
M1a: | 所属リンパ節転以外のリンパ節転移 |
M1b: | 骨転移 |
M1c: | リンパ節、骨以外の転移 |
限局性前立腺がん(転移がなく、がんが前立腺にとどまっている)の場合、手術または放射線治療で根治が望めます。
転移がある場合、根治治療は難しく、がんの進行を抑えるような治療となります。
①手術
前立腺と精嚢、骨盤リンパ節を一塊として摘出する根治的な治療法です。前立腺を摘出して、膀胱と尿道を吻合します。
当院ではロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術で行ない、開腹手術にくらべ出血量も格段に減少し、明らかに低浸襲となっております。
病気の進行度合いによってはリンパ節郭清を省略したり、勃起をつかさどる神経を温存することも可能です。
主な合併症としては尿失禁、性機能低下などがあります。
②放射線療法
放射線を前立腺に照射して治療します。前立腺に限局した癌が適応で、手術に近い治療効果が期待できます。
従来のX線に加え、陽子線や重粒子線も保険適応となっております。
放射線療法はその照射方法により(1)外照射と(2)内照射とに分けられます。
(1)外照射療法
体の表面から放射線を照射する治療です。
合併症としては照射皮膚面の放射線障害、膀胱刺激症状(血尿、頻尿、排尿時痛など)、直腸障害、
排尿障害、勃起不全などがあります。
(2)組織内照射療法
放射線が出る小さなカプセルを前立腺の中に数十個埋め込む治療です。
外照射療法との併用や内分泌療法と併用されることがあります。
③内分泌(ホルモン)療法
前立腺がんの多くの部分は、男性ホルモンの存在下で発育することが知られており、男性ホルモンを体の中から取り除くことで前立腺がんの発育を抑制することができます。
転移があるなど病状の進行している方や、高齢の方、また手術や放射線治療後に再発した患者さんなどに対してこの治療を施行します。
内分泌療法の副作用は、女性ホルモンが優位になることから男性更年期障害がみられます。急なほてりや勃起不全が代表的な症状です。
その他、長期に使用した場合は、骨粗しょう症、心血管系疾患、糖尿病などを発症することがあります。
④ 抗がん剤治療
ホルモン治療の効果がなくなり、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)へと進行した場合に行われます。
最近、CRPCに対する新規薬剤が発売され使用可能となっております。
⑤PSA監視療法(アクティブ・ サーベイランス)
低リスク前立腺癌(癌の悪性度が低く、進行が軽度の場合)積極的な経過観察を選択することもできます。定期的にPSA値を測定し、1-2年に1回程度は生検で癌の進展がないか確かめます。
癌の進行が疑われる場合は治療を開始します。
●当院における手術件数:ホームページ、各科診療案内の泌尿器科に記載しておりますのでご参照ください。
Q: | 前立腺肥大症で通院中です。初診時のPSAが6で、最高値は12、最近は9前後で推移しています。 その間に受けた生検結果は、異常なしでした。癌に移行する可能性はありますか? |
A: | 前立腺は炎症などが起こりやすく、それによってPSA値が上下することがあります。 生検を受けていますので今は心配ないように思われますが、今後PSAが上昇していくようであれば、MRI検査や再生検が必要と思われます。 |
Q: | 前立腺がんが骨とリンパ節に転移していて、内分泌治療を開始して4年になります。最初68であったPSA値は現在0.04です。 |
A: | 内分泌療法が非常に効果を発揮しているものと思われます。転移がある状態でも長期に癌の発育を抑制できることは決して希なことではありません。 |
Q: | 前立腺全摘出術を受けてPSA値が0.004まで低下し安定していたのですが、最近は測定するたびに増加し0.2を超えてきました。 |
A: | 術後PSA値が0.2をこえてさらに連続的に上昇する場合、局所再発やリンパ節などに転移していることが考えられます(画像診断では発見できない微小転移と考えます)。 放射線療法や内分泌療法の追加治療が必要となると思います。 |
Q: | 前立腺摘出術を受けるつもりですが、勃起不全が嫌なんですが・・・。 |
A: | 根治的な手術をすれば100%起こりうる合併症です。ただ、癌の場所や状態によっては神経温存手術も可能です。ただ神経温存を行っても性機能障害は起こりえます。また勃起能力の回復には個人差もあり、時間もかかります。 |
Q: | 前立腺の摘出術の尿失禁はどのようなものですか、またどれくらいで治りますか? |
A: | 前立腺を摘出時の尿道括約筋(尿を我慢するためにはたらく筋肉)など尿道周囲組織の障害がおもな原因です。失禁の改善に関係する要因として、残存尿道の長さ、患者さんの年齢、神経温存の有無などが考えられていますが、改善するまでの期間は予測不能で個人差があります。 当院で施行したロボット支援手術の失禁改善率は、術後1か月:58%、3か月:85%、6か月:90%以上となっております。 ごくまれに改善しない場合があり、人工括約筋を埋め込む手術をうける方もあります。 |