● 大腸は小腸(回腸)に続く右下腹部に位置する盲腸からはじまります。
次に上に向かう部分を上行結腸、右から左へ向かう部位を横行結腸、下に向かう部分を下行結腸、S字状に曲がっている部分をS状結腸と言い、約15cmの真っすぐな部分が直腸で、肛門皮膚までを肛門管と言います。
● 結腸・直腸を総称して大腸といいます。大腸の壁は他の腸管と同じように食物の通る内腔側から腹腔にむかって粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜の5層にわかれます(上行結腸,下行結腸,直腸の一部では漿膜がありません)。
がんは粘膜に発生します。大腸は消化吸収された残りの腸内容物をため、水分を吸収しながら大便にするところです。
多種、多量の細菌の住みかでもあります。
● 大腸がんは大腸(結腸と直腸)粘膜に発生します。
発生部位と頻度は、直腸534例(37.9%)、S状結腸483例(34.3%)、上行結腸146例(10.4%)、横行結腸99例(7.0%)、盲腸83例(5.9%)次いで下行結腸64例(4.5%)となっており、直腸S状結腸に圧倒的に多く発生します。
① 罹患率と死亡率
大腸がんの罹患率は男性では人口10万に対して82.0、女性は55.7でともに第2位です(2000年)。粗死亡率は男性では人口10万に対して35.4で第4位、女性では28.2で第1位です(2004年)。
② 生存率
5年生存率は約70%。
(早期癌(病期1まで)は90%以上で早期に発見すれば高い治癒が期待されます。1991~1994年、大腸癌研究会・大腸癌全国登録から)
③ 危険因子
直系の親族に同じ病気の人がいるという家族歴や特に家族性大腸腺腫症と遺伝性非ポリポーシス性大腸癌家系は確立した大腸がんのリスク要因とされています。
また、潰瘍性大腸炎やクローン病に大腸がんの合併があり、リスクが高くなると考えられます。
生活習慣では過体重と肥満、高脂肪食、飲酒などで結腸がんリスクが高くなります。
黄緑色野菜類や高繊維食品などは予防的な食物とされています。
肛門に近いS状結腸や直腸に発生したがんにおきやすい症状は血便、便が細くなる、腹痛、下痢と便秘の繰り返しなどが多く、肛門から離れた盲腸がんや上行結腸がんでは血便を自覚することは少なく、貧血症状があらわれてはじめて気がつくこともあります。
腹痛や腹鳴、腹部膨満感や痛みを伴うしこりが初発症状のこともあります。
大腸がんは、早期であればほぼ100%近く完治しますが、一般的には自覚症状はありません。
したがって、無症状の時期に発見することが重要となります。
① 免疫学的潜血反応
大腸がんのスクリーニングとして有用ですが、陽性でも「大腸がんがある」ということではありませんし、逆に陰性でも「大腸がんはない」ともいえません。良性腫瘍でも陽性となります。
② 注腸造影検査
食事制限の後、下剤で前処置を十分行います。肛門からバリウムと空気を注入し、X線写真をとります。腫瘍の存在部位と大きさを決定します。
③ 大腸内視鏡検査
大腸がんの確定診断のために必須で、正確な位置や大きさなどがわかります。多くの場合、同時に組織が採取され良性悪性の診断がなされます(病理組織診断)。
④ 腫瘍マーカー
CEAとCA19-9と呼ばれるマーカーが一般的ですが、早期発見というよりも転移・再発の指標として、また治療効果の判定基準として用いられていられることが多いです。
⑤ CT、MRI、超音波検査、PET検査など
大腸がんに関しては、原発巣での進みぐあいと肝臓や肺、腹膜、骨盤内の転移・再発を調べるために用いられます。
腫瘍の壁浸潤の深さ(T因子)、リンパ節転移の有無(N因子)、遠隔転移の有無(M因子)により規定され、この臨床病期に応じて治療法が変わってきます。
① T:腫瘍の壁浸潤の深さ
粘膜からの深さで分類されます。
(ア)T0:腫瘍がない。
(イ)Tis:腫瘍が粘膜内にとどまり粘膜下層に及んでいない。
(ウ)T1:腫瘍が粘膜下層にとどまり固有筋層に及んでいない。
T1a:腫瘍が粘膜下層までにとどまり浸潤距離が1000μm未満 。
T1b:腫瘍が粘膜下層までにとどまり浸潤距離が1000μm以上であるが固有筋層に及んでいない。
(エ)T2:腫瘍が固有筋層まで達し超えていないもの。
(オ)T3:腫瘍が固有筋層を超えているもの。
(カ)T4:腫瘍が漿膜表面に接しているかまたは露出あるいは直接他臓器に達しているもの。
T4a:腫瘍が漿膜表面に接しているかまたはこれを破って腹腔に露出しているもの
T4b:腫瘍が直接他臓器まで及ぶもの
② N:領域リンパ節への転移の状態
(ア)N0:領域リンパ節転移がない
(イ)N1:腸間傍リンパ節と中間リンパ節の転移総数が3個以下。
N1a:転移個数が1個。
N1b:転移個数が2~3個。
(ウ)N2:腸間傍リンパ節と中間リンパ節の転移総数が4個以上。
N2a:転移個数が4~6個。
N2b:転移個数が7個以上。
(エ)N3:主リンパ節に転移を認める。下部直腸癌では主リンパ節およびまたは側方リンパ節に
転移を認める。
③ M:遠隔転移の状態
(ア)M0:遠隔転移を認めない。
(イ)M1:遠隔転移を認める。
M1a:1臓器に遠隔転移を認める。(腹膜転移は除く)。
M1b:2臓器以上に遠隔転移を認める。(腹膜転移は除く)
M1c:腹膜転移を認める。
M1c1:腹膜転移のみを認める。
M1c2:腹膜転移およびその他の遠隔転移を認める。
※日本の大腸がん取り扱い規約では、肝転移(H)、腹膜転移(P)、肺転移(LM)をその他の遠隔転移(M)と分けていますが、後で述べますが国際規約でもともに転移があれば病期Ⅳとなります。
④ 病期:上記T、N、M分類の組み合わせで決まります。
●治療法には内視鏡的治療、外科療法、放射線療法、化学療法があります。
① 内視鏡的治療
(ア)内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)
茎のあるポリープを認めた場合,スコープを通してスネアとよばれるループ状の細いワイヤー(針金)を、茎の部分に引っかけて締めて高周波電流で焼き切ります。
(イ)内視鏡的粘膜切除術(EMR)
無茎性、つまり平坦なポリープや腫瘍の場合はワイヤーがかかりにくいため、病変の下層部に生理食塩水などを注入して周辺の粘膜を浮き上がらせ広い範囲の粘膜を焼き切ります。通常、外来治療を行いますが病変が大きい場合には短期間の入院の上内視鏡治療を行います。
(ウ)内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
腫瘍が大きい場合、病変を電気メスで徐々にはぎ取る方法を応用することにより、大きな腫瘍も一括で切除できるようになってきていますが、EMRに比較すると高度な手技を要するため切除に多少時間がかかりますし、切除面の傷も広くなるため一週間前後の入院が必要となります。
(エ)切除組織の病理検索を行う
粘膜下層へ達している場合はリンパ節転移の可能性が高くなりますので、外科的に追加切除、リンパ節廓清を行うことがあります。
また、粘膜に限局していても組織型が低分化ながんは対象となりません。
② 外科療法
(ア)一般には腫瘍の存在する腸管切除と所属リンパ節の郭清術が行われます。盲腸、上行結腸、下行結腸では血液支配の関係でやや広めに腸管切除が行われます。
また、直腸の肛門に近い部分では肛門も同時に切除して人工肛門を作製することになります。子宮などの骨盤臓器に浸潤している場合、骨盤臓器を合併切除することもあります。
(イ)遠隔転移がない場合(病期Ⅰ~Ⅲ期)
腫瘍の壁浸潤の深さ、リンパ節転移の程度によりリンパ節郭清範囲が決められます。
(ウ)遠隔転移がある場合(病期Ⅳ期)
転移部の腫瘍が切除可能であれば通常の手術をします。
(エ)副作用
結腸がんの場合、切除する結腸の量が多くても術後の機能障害はほとんどおこりません。
直腸がんの場合、自律神経の傷害により排便、排尿、性機能など障害が起こることがあります。
③ 腹腔鏡手術
●腹腔鏡を腹部の中に入れその画像を見ながら小さな孔から器具を入れて手術を行います。
手術時間は開腹手術より長めですが、小さな傷口で切除が可能ですので、術後の疼痛も少なく、術後7~8日前後で退院できるなど負担の少ない手術です。
がんが盲腸、上行結腸やS状結腸、上部直腸に位置し、内視鏡的治療が困難な大きなポリープや早期がんが腹腔鏡手術のよい対象と考えられています。
●腹腔鏡手術を希望する場合には専門医がいる病院を受診し、開腹手術と比較した長所、短所の説明を十分に受けて、腹腔鏡手術か開腹手術かを決定して下さい。
④ 化学療法
●大腸がんの化学療法は、進行がんの手術後に再発予防を目的とした補助化学療法と、根治目的の手術が不可能な進行がんまたは再発がんに対する生存期間の延長及びQOLの向上を目的とした化学療法とがあります。
●根治的な手術が不可能な場合には、化学療法の適応になります。
大腸がんの場合、化学療法のみで完治することはまれですが、臓器機能が保たれている人では、化学療法を行わない場合と比較して、化学療法を行ったほうが生存期間を延長させることがわかっています。