肺は胸腔と呼ばれる胸の中にある左右一対の臓器です。それぞれの肺は葉と呼ばれる部分からなり、右肺は3葉(上葉、中葉、下葉)、左肺は2葉(上葉、下葉)に分かれています。
肺はいわゆる呼吸を行なう臓器ですが、空気は口・鼻・咽頭・喉頭・気管を経て左右の気管支から肺に入ります。
気管支は肺の中で細気管支と呼ばれるさらに細い管に分かれ約23回枝分かれして、肺胞と呼ばれる酸素と二酸化炭素を交換する場所へ到達します。
上記の太い気管支から肺胞までの気道を覆う細胞から発生する悪性腫瘍です。
① 罹患率と死亡率
肺がんの年齢調整罹患率は男性では人口10万に対して57.1、女性は17.66で、男性第2位、女性第4位です(2000年)。
粗死亡率は男性では人口10万に対して71.3で第1位、女性では24.8で第3位です(2004年)。
② 危険因子
喫煙は重要で、欧米ではたばこが、肺がんの発生原因の90%とされています。非喫煙者に比べ、喫煙者の肺がん発生率は4.4~2.8倍となっています。
喫煙は、他の癌でも危険因子としてあげられており、禁煙対策が重要であり、当院を初め施設内禁煙を掲げる病院が増えてきています。
また、最近注目されているアスベストによる肺がん癌や中皮腫(肺や胸腔の表面を覆う中皮細胞の悪性腫瘍)が注目をあびています。
日本では今後増加が予想され、アスベストに対しては対策法の施行など各種の取り組みがなされています。
※ 多くは長期間の咳、喀痰、血痰(痰に血が混じる)、発熱、呼吸困難、胸痛などがあります。
発生部位により異なり、比較的大きな気管支近傍に発生する中心型肺がん癌は上記症状を呈することが多いですが、肺胞など末梢に発生する末梢型肺がんでは症状を訴えることが少なく、健康診断やドック、他の疾患の経過観察中に偶然みつかることが多いです。
まれに進行して転移により骨の痛み(腰痛や胸痛)、頭痛、吐き気、嘔吐、などで発見されることもあります。
① 胸部X線写真
腫瘍が発見される契機となります。検出率は80%程度と報告されていますが、小型のものは23%程度という報告もあります。
② CT検査
現時点では最も有力な検査です。70~95%程度が検出可能です。ヘリカルCTは従来型よりも検出率が向上します。
③ MRI検査
CT検査と同様の検査で小型の肺がんの発見率が向上しています。
④ RI(シンチ)検査
骨転移など転移の有無などを調べます。
⑤ PET-CT検査
RI(シンチ)検査と同様に転移の有無などを調べますが、この検査により初めて発見されることもあります。
⑥ 腫瘍マーカー
ある腫の癌では高値となることがありますが、その陽性率は40~60%程度です。
⑦ 細胞診
喀痰細胞診検査と(気管支)擦過細胞診検査があります。
前者は喀痰中の悪性細胞を見つけだすスクリーニング的な意味合いをもちます。
腫瘍の性状を確かめるために行われるのが(気管支)擦過細胞診検査で気管支鏡を使用して露出する腫瘍から直接細胞を採取して診断します。
次の組織診断とともに確定診断検査となります。
⑧ 生検組織診断
(気管支)擦過細胞診検査と同様に気管支を通して組織(細胞の塊)を採取してきます。
これらが不可能な末梢の腫瘍に関しては、CT検査の下、皮膚側から腫瘍部に針を刺して腫瘍組織を採取して(CTガイド下生検)診断する場合もあります。
※⑦⑧が確定診断の有力な検査ですが、腫瘍の発生部位や患者さんの状態により採取することができない場合もあります。
この時はその他の検査で総合的に判断することもあります。
次の3つの因子で規定され、予後との関連が指摘され、治療法の選択にも関係します。
① T:腫瘍の状態
(ア)T1:腫瘍の大きさが3cm以下。
(イ)T2:大きさが3cmをこえるものや太い気管支(主気管支)に及ぶものあるいは肺の表面に出ているもの。
(ウ)T3:大きさとは無関係に隣接臓器、すなわち胸壁、横隔膜などにおよぶもの、あるいはさらに中枢の気管支におよぶもの。
(エ)T4:大きさとは無関係に、心臓、大きな血管、気管、食道などに及ぶもの、あるいは同一の葉内に2個以上存在する場合や胸水中に悪性細胞が見られる場合。
② N:所属リンパ節への転移の状態
(ア)N0:転移なし。
(イ)N1:腫瘍と同じ側の気管支あるいはその近傍(肺門)のリンパ節への転移あり。
(ウ)N2:同じ側の縦隔(左右の肺の間の部分で心臓,気管,食道などがある)及び気管分岐部リンパ節への転移あり。
(エ)N3:反対側の縦隔、肺門または鎖骨部のリンパ節へ転移あり。
③ M:遠隔転移の状態
(ア)M0:遠隔転移なし。
(イ)M1:遠隔転移あり。
④ 病 期
術前に決定される病期(臨床病期)と手術後採取された組織で決定される病期(病理病期)があります。上記T、N、M分類の組み合わせで決まります。
(ア)0期:ごく早期のがんです。
(イ)Ⅰ期:がんは原発巣(発生部位)に留まっており、3cm以下(ⅠA期)、と3cmをこえるもの(ⅠB期)に亜分類されます。
(ウ)Ⅱ期:3cm以下で近くのリンパ節に転移を認めるもの(ⅡA期)とリンパ節転移があり3cmをこえるものとリンパ節転移はないが肺の表面あるいは周囲にひろがっているもの(ⅡB)に別れます。
(エ)Ⅲ期:周囲肺組織にひろがっていますが、リンパ節転移は腫瘍のある側にとどまっているもの(ⅢA期)とこれをこえて遠くのリンパ節に転移があるか、胸水中にがん細胞を認めるもの(ⅢB期)に別れます。
(オ)IV期:肺の他の場所、脳、肝臓、骨、副腎などの臓器に転移(遠隔転移)がある場合です。
① 治 療 法
手術療法、化学療法、放射線療法が主として行われます。
② 腫瘍の組織型
肺には色々ながんが発生しますが、大別して小細胞癌と非小細胞癌に分類されます。
後者には腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌が含まれます。この組織型により治療法の選択が異なります。
③ 小細胞癌
小細胞癌は早期から全身に転移しやすく、進行が早い反面、化学療法(抗がん薬)や放射線治療がよく効くので、ごく早期のものを除いて抗がん薬の全身投与が第一選択になります。これに放射線療法が加わります。
治療成績は、診断時に胸腔内にがんがとどまっていた場合(限局型:LD)で20~30%(5年生存率)、胸郭外に転移があった場合(広範型:ED)で10~20%(2年生存率)です。
必要によって、転移がない時期に脳に放射線の予防的照射を実施する場合もあります。
④ 非小細胞癌
外科療法を主体に考えますが、病期あるいは患者さんの状態(年齢や合併症の有無など)により薬物療法や放射線療法が第一選択となることがあります。また、手術後の病理検索で、リンパ節転移が認められた場合は術後化学療法を行うことがあります。
(ア)外科療法
Ⅰ期およびⅡ期のがんに行われ一般には腫瘍が存在する小葉と同側のリンパ節廓清が行われます。
(イ)胸腔鏡手術(VATS手術)
最近行われるようになってきた手術の一種で、Ⅰ期のがんに対して開胸をせずに胸腔鏡での視野下で肺葉、リンパ節を切除します。
(ウ)薬物療法
進行したものや再発例におこなわれます。
細胞障害性抗がん薬、いわゆる抗がん薬の他、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬があります。
(エ)放射線療法
骨や脳転移などの転移部位に照射します。
※当院では(ア)(イ)を組み合わせた中間的手術(ハイブリッドVATS)を積極的に行っており、患者さんに負担が少なく早期の退院が可能となっています。
⑤ 副作用(合併症)
(ア)外科療法
肺を切除することによる影響で、息切れや術後早期では肺炎にかかりやすいこともあります。
(イ)薬物療法
抗癌剤の種類により異なります。
(ウ)放射線療法
肺臓炎などをおこします。