核医学診療室では、放射性同位元素(RI)を使った検査と治療を行っています。
核医学検査(シンチ)とは
核医学検査とは、ガンマ線という放射線を放出する放射性同位元素(RI)と、検査目的の臓器等に集まる薬(放射性同位元素のみの場合もあります)をくっつけたもの(放射性医薬品)を主に静脈から注射しその臓器から出てくるガンマ線を専用のカメラ(ガンマカメラ)で受けて画像(シンチグラム)にする検査です。検査に使用する放射性同位元素の量は微量で、半減期が短いものが使用されます。すみやかに体外へ排出されるので安心してください。
※下述のSPECT(スペクト)とはガンマカメラが体の周りを回って、輪切りの画像を得る検査のことです。
SPECT/CT検査
SPECT/CT検査とは従来のSPECT装置に専用のCT装置を組み合わせた最新の装置を用いた検査のことです。このCT装置により、従来のSPECT画像に画質向上のための補正が加えられます。また診断用のCTに比べ被ばくを抑えた設計となっていますので安心して検査を受けていただけます。
もう一つの特徴として従来の核医学の画像は解剖学的位置の把握が困難とされてきましたが、CTと画像を重ね合わせることにより位置情報をもたせることができ、より診断価値の高い画像を提供することができるようになりました。
※すべての検査でCTを撮影するわけではありません。
『SPECT/CT装置 GE社製InfiniaHawkeye4(GE Healthcare社製)』
検査の流れ
1.放射性医薬品を投与します。
まず検査室に来ていただいて、静脈注射(検査によってはカプセルを飲んでいただくこともあります)によって放射性医薬品を体内に投与します。
2.放射性医薬品が、検査したい臓器に集まるまで待ちます。
待ち時間は、放射性医薬品や検査方法によってさまざまで、投与直後から検査が始まったり、2~3時間待ってから検査を始めたりします。待っていただいている間に放射性医薬品(図▲-○ )が臓器に取り込まれ、うまく取り込まれなかったものや、放射性同位元素(図▲)と臓器に集まるための薬(図○)の結合のとれてしまったものは、ほとんどの場合、尿中に排泄され体外に出ていきます。
検査 | 待ち時間 |
骨シンチ | 2~3時間後 |
ガリウムシンチ | 3日後 |
負荷心筋血流シンチ | 10分と3時間後 |
心筋交感神経シンチ | 15分後と4時間後 |
脳血流シンチ(ヨード製剤) | 15分後と3時間後 |
脳血流シンチ(テクネ製剤) | 10分後 |
脳血流シンチ(負荷あり) | 直後 |
腎DMSAシンチ | 2時間後 |
腎レノグラム | 直後 |
甲状腺 | 3、(6)、24時間後 |
肺血流シンチ | 直後 |
肝シンチ | 直後 |
※検査目的によっては待ち時間が異なる場合があります。
各検査の注意事項は、予約時にお渡しします検査予約票をよくお読みください。
3.目的臓器から出てくる放射線を、ガンマカメラで受けて画像化します。
検査用ベッドに寝ていただき、ガンマカメラを体に近づけ、画像を撮っていきます。検査時間は20~30分がほとんどですが、検査によっては1時間以上かかることもあります。また、胸部や腹部の検査でSPECTの時は手を上げていただき検査します。
基本的に呼吸を止めて検査することはありません。検査中はリラックスして、体を動かさないようにしていてください。
各種検査画像
脳血流シンチ
骨シンチ
負荷心筋血流シンチ
腎レノグラム
核医学診療施設内
処置室(薬を投与する部屋)
運動負荷室(負荷心筋シンチ)
注意事項
“2.放射性医薬品が検査したい臓器に集まるまで待ちます。”の説明にもありますように、体内に入った放射性医薬品のうち、不要な成分は尿中に排泄されていきます。検査にある程度時間がかかりますし、骨盤部を検査する場合、尿が検査の邪魔になりますので、検査前には排尿をするようにしてください。
お食事の有無が画像に影響することがある検査もありますので、詳細は検査予約票の指示に従ってください。
当検査室では、ほとんどの放射性医薬品を検査前日に注文し当日の朝に製薬会社から届きます。放射性医薬品は時間と共に少なくなっていきますので、保存が効きません。
予約変更、あるいは取り消される場合は前日の午後3時までに地域医療連携に連絡して下さい。
PET/CT検査
がんの早期発見への第一歩、それが『PET/CT検査』です
平成24年1月4日より、がん診断に有用な『PET/CT検査』を開始しました。これにより、腫瘍の有無の判別に加え、腫瘍の悪性度が高いか、ある程度判断する事ができます。ただし、すべての腫瘍の良・悪性を区別できるわけではありません。
『Discovery PET/CT 600Motion Vision(GE Healthcare社製)』
PET検査とは?
『PET』の正式名称は、『Positron Emission Tomography』です。この頭文字をとって『PET』と呼ばれています。日本語では『陽電子放出断層撮影法』と訳されます。RI(放射性同位元素)を用いた検査の一つで、『陽電子』を放出する薬剤を体内に注射して、そこから出る放射線をPET装置で検出することによって薬剤の体内分布を画像化して、病気を診断する検査法です。
PET検査では、CT検査やMRI検査など、臓器の形から腫瘍の有無を診断する従来の検査法とは異なり、「がん細胞は正常の細胞に比べて多くのブドウ糖を取り込む」という性質を利用して、ブドウ糖にフッ素-18[18F]というごく微量の放射性物質(放射性同位元素)をくっつけた薬剤(以下FDG)を体内に注射します。すると、がん細胞は正常な細胞より多くのFDGを取り込みます。そこから放出される微量の放射線をPETカメラでとらえて、がん細胞の代謝・機能を調べることで、がんの発見に威力を発揮するというわけです。
PET検査の特徴
◎がんの発見、転移、再発の診断に有用です。
◎一度の検査でほぼ全身を見る事が可能です。
◎薬剤を注射して約1時間安静にした後、PET/CT装置で30分ほど横になって写真をとるだけです。
などが挙げられ、受診者の負担が少ない上により詳しく検査を行うことができるようになったと言えるでしょう。
PETからPET-CTへ
当院では、PET検査と同時にCT検査が行える最新鋭機器『PET-CT』を導入しました。これにより、検査時間の短縮はもちろんのこと、PETによる細胞の機能診断画像とCTによる形態診断画像を重ね合わせることで、診断精度が大幅にアップします。
<PET/CT Fusion画像> | <PET/CT Fusion画像> | <PET画像> | <MIP画像> |
検査の流れについて、下図に示します。
PET-CT装置での検査時間(ベッドに横になって撮影している時間)は約20~30分です。しかし、注射をしてから薬剤(FDG)が全身に行きわたる時間や検査終了後に休憩していただく時間を含めますと、2~3時間ほどかかりますので、ご了承ください。
検査による被ばくについて
一般的に、FDG注射による被ばく線量は3.5mSv(ミリシーベルト)、PPET-CT検査全体の被ばく線量は約6.0mSvと言われていますが、健康上の問題は全くありません。
呼吸同期PETについて
呼吸同期とは、呼吸に合わせて画像を取得する、動きの影響を考慮した撮像技術です。呼吸同期PETを行うことで、呼吸によって発生するぼけと位相のずれをとらえることができ、動きのある腫瘍に対する放射線治療計画にも活用できます。また小さな病変の描出能の改善や、質の高い医療に貢献します。
内用療法
内用療法とは?
非密封放射性核種による放射線治療の一つで、組織破壊性の強いRIを投与し、生物学的機序により治療目的臓器あるいは腫瘍に集め、組織を内部から破壊することにより治療をおこなう放射線治療です。
当院では以下の4種類の治療に対応しております。
ゼヴァリン・バセドウ病・アブレーション(甲状腺がんの術後追加療法)・ゾーフィゴ
<ゼヴァリン>
90Y標識坑CD20モノクローム抗体による再発又は難治性低悪性度ろ細胞B細胞性非ホジキンリンパ腫、マントル細胞リンパ腫の治療。
三重県内では当院のみがこの治療を行っております。
(概念図1)
B細胞リンパ腫表面のCD20の抗原というのは、B細胞系統だけにあって、リンパ腫の治療に、既に用いられています。
この腫瘍細胞の表面抗原CD20に対する、クローン抗体CD20にイットリウム90(90Y)をキレート結合したものを用います。
これを静注すると、腫瘍細胞にたどり着いてイットリウム90からのβ線で腫瘍細胞を破壊します。
(概念図2)
イットリウム(90Y)から放出されるベータ線は、結合した腫瘍細胞だけではなく近傍の腫瘍細胞にも照射されるため(Cross-Fire Effect)、大きな腫瘍や血管分布の少ない腫瘍に対する効果も期待出来ます。このように、ゼヴァリンによるRI標識抗体療法は従来の化学療法や抗体療法などとは異なる作用機序を有する革新的な治療法です。
<NaI-131によるRI治療>
・バセドウ病の治療
バセドウ病の3大治療法 | ||
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長所 | 短所 | |
抗甲状腺剤 | ・特別な技術が不要 ・治療しながら日常生活が可能 ・治療効果が可逆性 |
・副作用があり得る ・寛解までの期間に個人差 ・多くの場合長期におよぶ ・再発率が高い |
RI治療 | ・治療効果が比較的短期で得られる ・副作用・合併症がない |
・特殊な設備が必要 ・治療後、低下症の発生率が高い |
手術 | ・期限付きで寛解が得られ、再発率が 低い |
・手術跡を残す ・危険性・後遺症があり得る ・治療成績、術後の合併症が術者の技術 に依存する |
患者向けパンフ/harecoco.net参照
表:バセドウ病の代表的な3つの治療法の特徴を表に示します。
バセドウ病の治療には、抗甲状腺剤による薬物療法、放射性ヨードによる内用療法、それに外科手術による切除の3つがあり、それぞれに長所短所があります。内用療法は甲状腺のヨウ素取り込み能を利用して、放射性のヨウ素(131I)を特異的に甲状腺に集め,甲状腺濾胞細胞を破壊する放射線療法です。
バセドウ病のRI治療はすでに1942年から始まっています。治療方法もほとんど変わっていません。日本でも1950年代に始まり、すでに60年以上の経験と実績を残してきています。それはRI治療が、非常に理にかなった治療法だからです。
<アブレーション>
・NaI-131による術後甲状腺癌転移巣の治療
甲状腺癌と診断され甲状腺全摘術によって病巣をすべて取り除くことができたと判断された場合でも、わずかに残っています。わずかに残っている甲状腺を放って置くと甲状腺癌が再発したり、他の部位に転移したりすることがあります。これを予防する目的で、放射性ヨード(カプセル剤)でわずかに残った甲状腺の処置をする治療です。アブレーションを行っておくと、再発予防になるだけでなく、万が一再発した場合にも、発見しやすくなる事が知られています。
<ゾーフィゴ>
・去勢抵抗性前立腺がん治療
骨転移した去勢抵抗性前立腺がん(男性ホルモンの分泌を抑える治療を実施しても症状が悪化する前立腺がんのこと)に対して延命効果や病的骨折の予防に効果が期待できるお薬が、ゾーフィゴ静注です。
ゾーフィゴ静注には、アルファ線と呼ばれる放射線を出す「ラジウム-223」という放射性物質が含まれています。
このラジウム-223には、骨の成分であるカルシウムと同じように骨に集まりやすい性質があり、代謝が活発になっているがんの骨転移巣に多く集まります。そして、そこから放出されるアルファ線が、骨に転移したがん細胞の増殖を抑えます。このアルファ線は、エネルギーが高く、細胞を破壊する力が強いという特徴があります。しかし、アルファ線の力が届く距離は0.1ミリ未満(体内)と短いことから、正常細胞に影響を及ばすことは比較的少ないとされています。
ゾーフィゴ静注は、4週間ごとに1回、静脈注射で投与します。最大6回の注射を受けると、ゾーフィゴ静注による治療は終了です。