腎臓は握り拳大の大きさで、骨盤の骨より少し上の腰のあたりに位置する左右一対からなる臓器です。
排泄と内分泌臓器としての機能を併せ持ち、排泄臓器としての腎臓は、尿の産生により、①代謝の結果生じた代謝産物や異物の排泄、②水・電解質のバランス調整、③体液の量・浸透圧の調整、④酸塩基平衡をおこなっています。
一方、内分泌臓器としての腎臓は①血圧の調節、②造血に関係する酵素を分泌、③ビタミンDの活性化によるカルシウムの調節など、からだを維持するために大変重要な働きを担っています。
腎細胞がんは、泌尿器科系悪性腫瘍の中では、前立腺がん、膀胱がんに次いで多い癌です。
急速に進行するタイプと比較的進行が緩徐なタイプがあるといわれていて、手術後10年を過ぎてから再発や転移を認めることがあります。多くの再発は8年以内といわれていますが、当院では13年を過ぎてから肺転移を認めた患者さんを経験しています。
再発・転移の部位は肺が最も多いのですが、骨、脳、肝などにも認めることがあります。したがって、長期にわたる定期的な経過観察が必要になります。
① 罹患率
腎細胞がんの発生頻度は、人口10万人あたり2.5人程度といわれています。男女比は2~3:1で、男性に多い傾向があります。
② 生存率
5年生存率は、腎に限局している癌であれば73~93%、腎周囲脂肪組織に浸潤するものでは63~77%、腎静脈や下大静脈内に腫瘍塞栓があるものまたは所属リンパ節転移のあるものでは38~80%、遠隔転移のあるものでは11~30%と報告は様々です。腎に限局する小さな癌では90%以上治癒するといわれていますが、5~6cmの腫瘍では20~30%、7~8cmの腫瘍では30~40%で再発を認めるといわれています。10cm以上の大きな腫瘍・転移のある場合の治療成績は、より劣ります。
また、発熱、著明な体重減少などの症状のある場合の予後は、症状のない腎細胞がんより明らかに不良といわれています。
③ 危険因子
腎細胞がんの原因は正確にはまだ分かっていませんので、今のところ、発生を予防することはできません。治療の事を考えると、とにかく早期発見に努めるしかありませんが、他の癌と同様に喫煙や脂肪摂取量などが危険因子としてあげられています。
また、長期血液透析をしている方に腎細胞がんの発生が多いことや発生しやすい家系のあることが知られてきて注目されています。遺伝子の解析も進み、その家系の遺伝子異常が同定できて、将来、腎細胞がんになることが予測できるまでになっていますが、家系内発生を予測できることを除いてはまだ研究段階の状態です。
大きくなるとさまざまな症状がみられますが、腫瘍の最大径が5cm以下の小さな癌では症状があることはまれです。
最近では、無症状で、人間ドックや健診でおこなった超音波検査で偶然見つかる機会が増えています。
しかし、癌が大きくなると、いわゆる腎細胞がんの古典的三大症状である血尿、疼痛、腹部腫瘤(しこり)などの症状がみられます。
また、さらに進行すると、全身的症状としての全身倦怠感、発熱、食欲不振、体重減少、貧血などの他、まれに骨転移による疼痛や骨折、肺転移による血痰などの症状で発見されることもあります。
① 超音波検査
人間ドックなどの健康診断をはじめ、診察のときに最初におこなわれる検査です。腫瘍の有無の判定には有用ですが、腫瘍の性質の判定(良性か悪性か)が困難な場合もあります。
② CT検査
腎細胞がんに診断でもっとも大事な検査です。造影剤を使用して撮影する事により腫瘍の性状の判定に役立ちます。同時に転移や静脈内に伸びた腫瘍塞栓の有無を診断できます。
③ MRI検査
CT検査同様、腫瘍の性状や静脈内の腫瘍塞栓進展の判定に役立ちます。
④ 血管造影(最近はおこなっておりません)
足のつけ根の動脈からカテーテルを挿入して腎臓の血管を造影します。
腫瘍の性状判定の補助的診断に用いますが、近年ではCTやMRIの進歩で、腎動脈を詰める塞栓術以外ではあまりおこなわれなくなっています。
⑤ 生検
画像診断で腎細胞がんが疑われるが、もう一つ根拠が乏しいという時におこないます。通常では生検はおこないません。
⑥ 骨シンチ
骨転移の有無の判定に用います。
T: | 原発腫瘍の状態 |
T1a: | 最大径が4cm以下で、腎に限局する腫瘍 |
T1b: | 最大径が4cmを越えるが7cm以下で、腎に限局する腫瘍 |
T2a: | 最大径が7cmを越えるが10cm以下で腎に限局する腫瘍 |
T2b: | 最大径が10cmを越えるが腎に限局する腫瘍 |
T3a: | 腫瘍は副腎または腎周囲脂肪組織に浸潤するが、Gerota筋膜を越えない |
T3b: | 腫瘍が横隔膜より下までの下大静脈に進展する |
T3c: | 腫瘍は肉眼的に横隔膜を越える大静脈内に進展する、または大静脈壁に及んでいる |
T4: | 腫瘍はGerota筋膜を越えて浸潤する |
Tx: | 原発腫瘍の評価が不可能 |
*Gerota筋膜は腎筋膜ともいい、腎臓を包む固有の膜でこの筋膜内に脂肪と更にその内側に腎臓が包まれています。
N : | 所属リンパ節への転移の状態 |
N0: | 所属リンパ節転移なし |
N1: | 1個の所属リンパ節転移 |
N2: | 2個以上の所属リンパ節転移 |
Nx: | 所属リンパ節の評価が不可能 |
M : | 遠隔転移の状態 |
M0: | 遠隔転移なし |
M1: | 遠隔転移あり |
Nx: | 所属リンパ節の評価が不可能 |
腎細胞がんの治療の主体は外科療法です。手術ができる場合は腎臓の摘出、あるいは部分的に摘出することが一般的です。肺や骨に転移があっても、それが一つだけであれば腎臓の外科的摘出を考慮します。
① 手術
通常は、全身麻酔で3時間ほどの手術です。大きな腎細胞がんでは周囲臓器(小腸、大腸など)を合併切除するときもまれにあります。
また、腎静脈・下大静脈まで腫瘍が進展している場合には下大静脈の切開・切除が必要となり、大出血も予想され負担の大きな手術になります。
近年、各種画像診断の普及から、腫瘍サイズが小さい腎細胞がんが発見される機会が増加しています。腎機能の悪化により心血管イベントの増加が指摘されており、近年は正常の部分は残して癌の部分だけ切除する腎部分切除をおこなっています。部分切除術は腹腔鏡下手術でおこなっていましたが2019年4月からはda
Vinciを使用したロボット支援腹腔鏡下手術で施行しています。腎部分切除術で大事なのが腎機能の温存、癌の制御、合併症の有無ですがロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術になり特に腎機能の温存(阻血時間の短縮)に有用です。泌尿器腹腔鏡技術認定が施行しており、部分切除術を施行した症例で再発は今のところ一人もおりません(2020年9月現在)。腫瘍の大きさ、形、部位など、また腹部手術の既往がある場合は部分切除ができないことがありますので担当医に相談して下さい。
腎全摘除は、お腹を切って切除する開放手術と小さな穴を空けて内視鏡で見ながら切除する腹腔鏡下手術がありますが腎摘除術は近年ほとんどが腹腔鏡下手術となっています。
手術合併症は、出血による輸血の可能性、リンパ節郭清後のリンパ液の貯留と炎症および足のむくみ、縫合不全、腸閉塞、周囲臓器(結腸、小腸、十二指腸)損傷などがありますが、腎臓のみを摘出する手術では比較的少ないです。
腎部分切除術の合併症としては、術後出血、尿瘻、仮性動脈瘤などがあります。
② 薬物療法
切除困難な腎細胞がんに対しては分子標的治療薬や免疫療法による治療をおこないます。
免疫療法とは近年話題なったオプジーボ®(ニボルマブ)などの免疫チェックポイント阻害薬であり患者さん自身の持つ免疫の力を使い癌細胞への攻撃力を高める作用があります。免疫療法と分子標的治療薬の併用や免疫療法薬を2剤使用することもあります。新規の薬剤もどんどん認可されており知識をアップデートして適切な投与を心がけています。
③ 凍結療法、ラジオ波焼灼術(当院では治療できません)
腎臓が片方しかない場合や、両方あっても腎機能が悪く手術により透析導入の可能性が高い方、また全身状態が悪く手術が困難な方は凍結療法をおすすめすることがあります。県内では三重大学附属病院でおこなっており紹介させていただいております。
また肺転移などに対して切除が容易でないと判断した場合はラジオ波焼灼療法を提案させてもらうこともあります。
転移巣に対しては、転移巣が少数で摘出可能な時は転移部位の摘出をおこなうことがあります。
また、脳への転移に対してはガンマナイフと呼ばれる放射線治療が選択されます。
当院では腎部分切除術、腎摘除術を合わせて年間20例前後の手術をおこなっています。
Q: | 人間ドックの超音波検査で腎臓に腫瘍があると言われましたが・・・ |
A: | 腎細胞がんの他に腎盂がんなどが疑われます。腫瘍のように見えるだけで異常がないこともありますので、泌尿器科専門医を受診して検査を受けることを勧めます。 |
Q: | 腎臓は手術して取っても大丈夫なのですか? |
A: | 腎臓は2つありますので、1つを摘出しても残った腎臓の働きがよければ、術後すぐに人工透析が必要となるような腎機能不全に陥ることはまずありません。 |
Q: | 転移しやすい部位はあるのですか? |
A: | 肺転移、骨転移、肝転移などの血行性転移の多いのが特徴です。これは腎臓が血管が非常に多い臓器だからです。 |
Q: | 腎温存手術(部分切除/核出術)とはどんな手術方法ですか? |
A: | 癌が小さいうちに偶然発見される腎臓がんが増えるにしたがい、最近おこなわれるようになってきた方法です。血管の走行や腫瘍の位置に注意を払い、癌の部分だけを摘出し、正常の腎臓部分を残し、温存する手術です。 |
Q: | 開放手術と腹腔鏡下手術の違いは? |
A: | 近年、腹腔鏡下手術が急速に広まりつつあります。15~20cmの長い皮膚の傷が必要な開放手術と異なり、お腹に開けた5~12mmの穴から3~5本のカメラ、鉗子、ハサミを体内に入れて手術をする方法が腹腔鏡下手術です。 腹腔鏡下手術では、手術による傷が小さいことから手術後の回復が早いことが特徴といえます。 |