1895年にベルギーでソーセージで食中毒を起こす細菌が発見され、ラテン語でソーセージはボツルスと呼ばれることから、ボツリヌス菌と命名されました。この菌は神経毒を分泌し、筋肉の麻痺を起こします。1970年代後半に、米国でこのボツリヌス毒素が斜視の治療に初めて応用されました。わが国ではA型ボツリヌス毒素(商品名:ボトックス)が販売されており、適応症は眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、痙性斜頚、上・下肢の痙縮、小児脳性麻痺による尖足で、健康保険が適用されます。施術医は認可を受けた専門医に限られています。
眼瞼痙攣は両目が不随意に強く閉じてしまい開眼できなくなる疾患で、メージュ症候群とも呼ばれています。片側顔面痙攣は片側の眼瞼や口元がピクピク痙攣するもので、脳底の血管による顔面神経圧迫が原因として多い疾患です。痙性斜頚は、首の筋肉の異常緊張(ジストニー)により、首が傾いたり曲がったりするものです。これらの疾患は内服薬による治療が困難でしたが、ボツリヌス毒素を痙攣している筋に直接注射することで、痙攣を止めることができます。また、脳卒中後などの上・下肢の痙縮(つっぱり、変形)にも効果があり、多くの患者様が対象になります。現在、当院では毎週水曜の午後に脳神経内科で専門外来を開いています。
一方、「しわ取り」などの美容整形目的の使用をテレビや週刊誌のマスメディアが取り上げ、こちらの方が本来の保険適応疾患よりも有名ですが、当院では、このような適応外疾患への使用や、保険外診療は一切行っていません。